私たちは病気になった場合、健康保険証を医師に提示して診察を受けます。これは医療保険団体が保険者として、私たちが被保険者として、医師が診療するという制度です。患者は医療費の通常2、3割の自己負担のみで診察を受け、残りは保険団体が医療費を医師に直接支給します。医師がこの保険制度を利用して診察するためには厚生局の保険医療機関としての指定を受けます。ところが、国家の医療費が増大するに従い医師の診療が過剰であるとかの理由で厚生局から医師に対して診療費の抑制を求めるため指導、監査がなされてきました。その指導、監査の結果医師に対して保険医療機関の指定の取り消し等の処分がなされることが多数見受けられました。しかし、刑事事件ではなく、行政調査であるため裁判所の令状も必要なく、医師側には黙秘権も調査拒否権もありません。本来こうした行政調査には法律問題として弁護士の立ち合い関与がもとめられますが、医師側に弁護士が業務として調査の立ち合いできることを知らないことや、弁護士に立会を依頼する心理的ハードルの高さ等から、弁護士への依頼がなされていない状況にありました。その結果、実情は弁護士による法的援助もなく密室において医師が一人で多くの調査官の過酷な調査を受け、保険医等が自殺するといった痛ましい事件が数多く起きています。そこで日本弁護士連合会は2014年8月22日厚生労働大臣及び各都道府県知事に対して健康保険法等に基づく指導・監査制度の改善に関する意見書を提出しています。

 ところが、これは日弁連の人権擁護委員会の意見書という形式にとどまっていてその後に日弁連として具体的な救済制度を構築するには至っていませんでした。そのためかねてより、厚生局の調査があった場合に弁護士が立ち会うことの必要性が痛感されており、日弁連では担当委員会を設け具体的に研究を始め、昨年京都で開催された第21回弁護士業務改革シンポジウムでも厚生局の調査の立ち合いのみならず税務調査の立ち合い、生活保護審査の立ち合い等もテーマとした次第です。

 そこで私たちは、今般京都、滋賀地区において具体的にこの厚生局の指導・監査の立ち合い業務を弁護士として実務的に実施するべく本団体を設立することにいたしました。これは保険医等に対する保険医療の指導・監査の透明性の確保、保険医等の防御の機会を確保する観点などから、弁護士の立会等によって、保険医等への法的援助をすることを目的とし、事業としては保険医等に対する指導・監査等の立ち会いの実地研修、具体的な紹介依頼を受けた場合の弁護士の相互協力援助等を行います。